
料理が得意だとは言えない。むしろ、包丁を握る手はいつもぎこちなくて、レシピを読むだけでため息が出る。そんな私がある日、東京都内の小さな料理イベントに参加したことで、“料理は誰でも始められる文化的な対話”だと気づいた。
◆ 料理は「上手に作る」より、「一緒に楽しむ」ことが大事だった
最初に参加したのは、杉並区のコミュニティスペース「みんなの台所」で行われたワークショップ。主催者は「家庭料理を通じて人と人をつなぐ」をモットーに、月に数回の食イベントを開催している。
テーマは「味噌玉づくり」。味噌、乾燥ねぎ、昆布、削り節などの具材を組み合わせ、ラップで丸めて保存できる“即席みそ汁の素”を作るというもの。調理経験がなくても参加できて、実際に参加していたのは子ども連れの親子、高齢の方、若いカップルなど多様だった。
誰かと一緒に台所に立ち、具材の香りや触感を感じながら手を動かす。会話が自然と生まれ、「これ、おいしそう」「私もそれ入れてみたい」と笑いが広がっていく。

◆ 統計が示す“料理が生むつながり”
農林水産省の2023年度「食育白書」によれば、家庭での調理頻度が高い人ほど、家族や地域とのつながりを感じやすい傾向があるという。
特に“共食”(家族や他人と一緒に食事をすること)を週4回以上行う人は、孤独感が顕著に低下し、生活満足度も高い。
つまり、料理とは単なる生活行為ではなく、人と人をゆるやかにつなぐ“社会的行為”でもあるのだ。
◆「おにぎりマラソン」で見た創造と笑顔
次に参加したのは「おにぎりマラソン」。参加者がそれぞれ好きな具材を持ち寄り、その場で即興でおにぎりを握って試食するというユニークな会。
私は塩昆布×クリームチーズという冒険レシピで挑戦。意外にも人気で、見知らぬ参加者から「今度家でも作ってみたい」と声をかけられた。
こうした“自由な台所”には、ルールがなく、失敗も笑いに変わる魅力がある。
◆ 外国人との“手巻き寿司ナイト”――味覚を越えるコミュニケーション
ある日、留学生の友人たちと「手巻き寿司ナイト」を開催。具材はまぐろ、納豆、アボカド、ツナマヨなど。海苔の上に酢飯と具材を乗せて巻くだけ。シンプルだけど、最高に楽しい時間だった。
神奈川県藤沢市の国際料理体験イベントでは、2024年度の参加満足度が94.1%に達している(藤沢市国際交流協会調査)。
料理には、言葉を越えて人と人をつなぐ力がある。
◆ 初心者でもできる「料理参加」の具体的ステップ
✅ ステップ①:火を使わない簡単レシピから始める
- 例:味噌玉(材料:味噌10g、乾燥わかめ、小ねぎ、削り節)
- 作り方: 材料を混ぜて丸め、ラップに包んで保存。飲むときはお湯を注ぐだけ。
✅ ステップ②:地域の料理教室に参加
- 市民センターや公民館での料理講座は低価格(500円前後)で初心者向け。
- 「○○市 料理教室」で検索すれば、近くで見つかるはず。
✅ ステップ③:“一品シェア制”を家庭で取り入れる
- 家族や友人と、各自一品を作って持ち寄り食卓に並べる方式。
- サラダや冷奴など、簡単なものでOK。

◆ 日本社会と「みんなで作る食」の可能性
高齢化や単身世帯の増加により“孤食”が課題となる中、“共につくる食”の価値が見直されている。
例えば北海道の小学校では、「地域のおばあちゃんと作る給食の日」が実施され、世代を超えた交流が食を通じて実現している。
こうした取り組みは、食育の域を超えて、地域の絆を回復する文化的な手段として広がり始めている。
? 結びに:今日、あなたも「ひとくちの料理」から始めてみませんか?
私はいまだに料理が得意ではない。でも、誰かと作って、笑って、食べるその時間が、何よりも豊かで温かい。
料理に正解はいらない。
ほんの少しの“つくる”気持ちが、あなたの周りを変えていくはず。
今夜、台所から始まる小さな物語を、あなたもぜひ。